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旅行記:北欧(世界自然旅)

32.深雪の峠道 (2004/6/5-6:雨または雪後曇時々晴

 空しい雨天歩き

 一夜明けて今日も晴天…のはずが、起きた時は重苦しい曇天で、出発の支度を整えている間に雨になってしまった。これでは歩く気がしないので、ひとまず小屋で待機。ところが雨はかえって強まってしまい、どうにも動きが取れなくなった。日程から考えると、今日中に13km先まで進んでおきたいのだが…今さらながら、沿岸急行船に乗り遅れた1日が悔やまれる。

 雨はなかなか止まずヤキモキさせられるが、昼過ぎになってようやく小降りになったので、防水対策を施し、意を決して出発する。しかし、30分もしないうちにまた雨脚が強まり、まとまった雨になった。もう逃げも隠れもできないので、粛々と歩いていくが、はっきり言って空しい…周りは霧だらけで何も見えないし、トナカイの大集団は逃げてしまうし、雨で体はビショビショ。おまけに雪道だらけで苦戦と、全く良いことがないのだ。

Snow canyon
道すがらの小渓谷

 唯一救われたのは、雪道でも踏み跡があること。ところどころ不明な箇所はあったが、おおむね跡が残っているので、昨日ほど体力を消耗しないで済む。それにしても、この踏み跡はそう古いものではない。小屋にあるゲストブックを見ても、ここ数ヵ月誰も泊まっていないようなのだが…

 大雨になるたびに背を向けて、休みながら着々と進んでいくと、やがて谷奥まで来て、いよいよ登りとなった。これまでは所々で露出した地面があったが、ここまで来ると完全に白銀の世界…雪も深くなって、モモのあたりまではまり込む箇所が出てきた。

  それでも、踏み跡を頼りに歩いて、6時頃に無事チェクタ小屋(Tjäktjastugan)に到着。すると中が暖かい…恐る恐る部屋の扉を開けると、そこには2名の先客がいた。彼らはチェコ人で、昨日ここに来て、今日は天気が悪いので待機したのだという(私より1日早く出発していたのだ)。あいにく部屋には2名分のベッドしかないので、私は床に寝床を作るしかなかった。

 小屋に着いてしばらくすると、いよいよ本格的な豪雨となり、いつしか雪に変わって、外に出るのも億劫なほどになった。果たして明日、無事峠越えできるのだろうか…

View from Tjäktjastugan
チェクタ小屋より

 深雪にキレる!

 翌日も外は雪で、昨夜よりはマシなものの、あまり歩きたいコンディションではない。場合によってはここで1日待機してもかまわないが、日程のことを考えると、チェクタ峠(Tjäktjapasset)を越えた次の小屋までの12kmは、できれば今日中に走破しておきたい…ここは天候が回復するのを祈って、しばし待機とした。

 するとまもなく、2人組は峠に向けて出発するという。昨日休んだ分、今日は是非とも歩きたいとのこと。後ほどの再開を約束して、彼らを見送った。

  それからというもの、外を眺めて出発の機会を窺うが、なかなか回復の兆しが見られない。すると、トナカイの群れがやってきて、雪の下に生える食料をあさっている。この深雪はトナカイにも辛いようで、かなり足を取られながら移動している。外は氷点下、この寒さの中でたくましく生きているのだから、トナカイは偉い!と見直してしまった。

Reindeer eating
餌をあさるトナカイ

Reindeer walking
トナカイも深雪に苦戦!

 午後になるとようやく回復の兆しが見え始め、時々青空も覗くようになってきた。今日の行程は12kmとはいえ、深雪の峠道だから、相当の苦戦が予想される。行くなら今しかない、と覚悟を決めて、2時過ぎ、先ほどの2人よりも4時間あまり遅れて、いよいよ峠に向かうことにした。

 意気揚々と出発してまもなく、早くも腰まで埋まるほどの深雪で、大変な苦労を強いられることとなった。まだ小屋から50mも歩いていないというのに…どうにか目の前の橋にたどり着き、対岸に渡るが、ここからは一面銀世界。しかも雪と風で先人たちの踏み跡は跡形もなくなっており、道を開拓していくしかない。しかし、軽く膝や腿まで、時には腰まですっぽりとはまる状態が続き、一歩一歩が果てしなく遠い。もう何度も落とし穴にはまっている気分だ。はまっては這い上がり、またはまっては這い上がり…クソーッ!あまりにひどいので、ついに深雪に対してキレてしまった。

Tjäktjapasset
チェクタ峠は遠い…

 少し冷静になったところで作戦変更。通常のルートは吹き溜まりになっているので、雪が深くてとても歩けたものではない。ならば多少遠回りになるが、斜面を歩いた方が雪が少なく済むだろうと、緩やかに登っていく。だが、その斜面にたどり着くまでが一苦労で、雪に埋もれっ放しになった。 1時間かかっても、まだ1kmも歩けていない…こんな深い雪は初めてだ。しかも、まだ峠までは2kmほどある。どうしよう…ここでふと「若者たち」の歌詞が浮かんできた。

君のゆく道は 果てしなく遠い
なのに なぜ 歯を食いしばり
君はゆくのか そんなにしてまで

 この年齢で若者と言えるかは別にして、いったい何のためにこんな道を歩いているのだろう、と疑問に思ってしまう。だが、ここまで来たら戻るも地獄。幸い天候は回復基調にあったので、先に進む。

 斜面に取りつくと、最初よりは雪が硬くなって、歩きやすくなった。それでも所々ひどいはまり方をするのだが…こうなると膝上ぐらいは余裕になってきて、ズブズブはまりながら歩いていく。やがて前方に峠と避難小屋が見えてきて、徐々にその姿が大きくなってきた。そして、峠に向けた最後の登りを、標識に沿って進むが、ちょっとショートカットしようとした瞬間、右足が完全にはまってしまい、抜け出せなくなってしまった。

 雪を掻き分けても、深過ぎてなかなか抜けられない。昨日ストック代わりに拾っていた木も、この掻き分け途中で2度も折れてしまった。まずい…いろいろと試行錯誤するが、思うようにはいかず、足は埋もれたままだ。このまま抜けられなかったら凍死か…と焦りが募るが、30分あまり格闘した末、ようやく脱出に成功した。そして、元の道に戻って登りを再開。クタクタになったところで、ようやくチェクタ峠にたどり着いた。

Snow art at Tjäktjapasset
峠で見た自然の芸術

 凍てつく世界

 ここまで3時間あまり。わずか3kmの道で、これほど時間がかかるとは思っていなかった。とりあえず避難小屋に入ろうとすると、前には2人組が出発していく姿があった。声をかけてみたものの、強風が音を遮り、全く聞こえないらしい。まぁ良い。ひとまず小屋に入って、温まることにしよう。

 小屋の中は、2人が暖を取ったおかげで温かい。ここでいったん凍りついた靴紐とスパッツをほどき、体を休める。それにしても疲れた…いっそここで夜を明かそうかとも考えたが、それはそれで辛いので、1時間ほど休み、6時半になって再出発を果たした。

 峠からはやや急な下りとなるが、相変わらずの深雪で、時々とんでもない落とし穴が待ち受けている。もうキレるのさえ疲れてきた…急斜面を抜けると、運良く2人が作った踏み跡に合流し、その先には彼らの姿もあって勇気づけられる。天候も良くなってきて、この先の様子が見えるようになってきた。まだまだ雪道が続くのは辛いところだが…

View from Tjäktjapasset
行く手が見えてきた

 深くのめり込んだ踏み跡を利用させてもらい、どんどん彼らとの距離を縮めていく。そしてまもなく、あっけなく追いつき、追い抜いていく(2人のうち1人が、相当体力を消耗して遅くなっていた)。ここからは踏み跡がないが、最大の難関はもう突破したので、はまっても腿辺りまで。そこをズカズカはまりながら歩いていった。

 谷底まで下っていくと、ようやく部分的に地面が露出するようになってきた。適当な道を探しながら歩いていくが、今度は湿地帯も現れるようになり、雪の下を川が流れていたりもするので、油断はできない。やがて本来のルートが所々見えるようになるが、まだ歩けるレベルではないので、見失わない程度の距離を保って前進。ふと振り返ると、2人組の姿は見えなくなっていた。まだ小屋まで距離があるのに、大丈夫だろうか…

 峠から数時間経ち、谷底はすっかり暗くなって、寒さは増す一方だ。気がつけばペットボトルの水は凍りつき、靴紐もスパッツも氷に覆われている。これで天候が悪かったら、本当に命に差し障ることだろう。北極圏を甘く見てはいけない。

 小屋はまだか…と惰性で歩き続けると、10時過ぎになって、ようやく前方にセルカ小屋(Sälkastugorna)が見えてきた。感動の瞬間だ(雷鳥も歓迎に訪れた)。たかが12kmの道のりで、こんなに苦労し、ここまで時間がかかるとは思っていなかったが、こうして無事たどり着くことができて本当に良かった。

Ptarmigan
歓迎の雷鳥

  10時半前に小屋に着いたら、さっそく暖を取り、靴を脱ぐ。スパッツは両足とも破損してしまい、もう使い物にならなくなってしまった。食事の準備を始めたところで、11時過ぎ、チェコの2人組もやってきた。彼らはよほど疲れたのか、食事もろくに取らずに眠ってしまった(後で聞いた話では、峠までの3kmで5時間半かかったらしい)。私も食事を終えたらさっさと眠り、この極限状態での疲労回復に専念した。

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