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旅行記:北欧(世界自然旅)

16.驚愕の教壇 (2004/5/7:雨後晴

 いきなりのピンチ

 北欧は、かねてから訪れてみたい、憧れの地であった。学生時代、アメリカを中心としたグローバリゼーション、市場至上主義に疑問を抱いていた私は、スウェーデンに代表される福祉国家に興味を抱き、勉強したものだった(最近では環境保護の面からも注目されている)。それに、自然と調和した美しい街並み、各地に残る大自然、夏は白夜、冬はオーロラと、極地特有の自然現象も見られるなど、魅力に満ちた地域だ。

 北欧は、もともとアルプスの後、7月に訪れようと思っていた。しかしガイドブックを読むと、6~8月のハイ・シーズンはかなり混み合うとのこと、他方で5月でも結構観光可能なように書かれていた。しかも、この時期は雨が少ないらしい(統計を見ると、夏は結構降水量が多い)。まだ春に入ったばかりで寒そうだが、この時期の方が観光客も少なく、じっくりと旅ができそうだと考えて、イギリスの後に訪れることにした次第である(アルプスを5~6月に周るのが早すぎる、というのもあった)。

 さて、丸1日弱の船旅を終え、最初の上陸地、ノルウェーのスタヴァンゲル(Stavanger)に到着したのは6日の10時半過ぎ。あいにく街は霧に覆われ、小雨がぱらつき、何とも寒々しい風情であった。

  ともあれ、 まずは宿探しのため、観光パンフレットで紹介されていたStavanger Bed & Beakfastを訪ねてみる。すると、今日はOKだが、明日以降の週末は満室だと言う。なんでも、学生たちが大挙して遊びに来るらしく、どこの宿も一杯らしい。何てことだ…北のベルゲン(Bergen)でフェスティバルがあるとは書いてあったが、スタヴァンゲルも混み合っているなんて!

 しかも、いざとなればキャンプ場でテントを張れば良い、と思っていたのだが、この時期はまだオープンしていないらしい(ユースホステルも閉館中)。困った…仕方なく1泊だけ確保するが、これが意外に高く、並のホテルと変わらない値段だった(資料には"Cheapest in town?"と書いてあったのだが)。初っ端から出鼻を挫かれた格好だ。

 そこで荷物を置いたら、とりあえずツーリスト・インフォメーションに向かう。ところが、中・高級ホテルしか見当たらないうえ、どの宿に空きがあるかもわからない。混雑必至の中、一軒一軒手当たり次第に聞いて回るのは大変な手間だし、どうしよう…困り果てた状態で宿に戻ると、宿の主人が見かねて、夕方に宿を探してくれるという。もうこれにすがることとし、いざとなったら野宿だと覚悟を決めたのであった。

 それから街中に繰り出し、辺りを散策してみる。お腹が空いたので軽くサンドイッチとジュースを購入すると、それだけでなんと1,000円を越えてしまった。たっ、高い…物価の高い日本でも、これぐらいなら500円もしないだろう。恐るべし北欧…物価が高いとは聞いていたが、まさかこれほどとは(日本の倍もする国があるとは)夢にも思っていなかった。これから1ヵ月あまり滞在するというのに、先が思いやられる…

 久々のメール・チェック(怖くなったので、ここでアルプスの宿を軒並み押さえにかかるが、それでも結構ギリギリだった)を終えたら、セブン・イレブンで夕食を購入するが、やはりベラボウに高い…できるだけ安そうなものを選ぶが、かなりの出費だ。宿に戻ると、主人はもういなくなっていた。明日の宿はどうなったのだろう…心配だったが、もうなるようになるさ、と割り切り、後は部屋で時を過ごした。

 不意の風雨

 翌朝、外では雲間から青空が広がっていた。朝食を終え、宿の主人が現れるのを待っていると、8時半頃になってようやく登場したので、さっそく聞いてみる。と、街中のSkansen Hotellが取れたとの朗報。良かった…この際値段は目をつぶり(ほぼ同じ料金だったが)、ホテルまで送ってもらってチェックイン。荷物を預けてようやく出発となった。

 スタヴァンゲルを訪れた目的は、リーセフィヨルド(Lysefjorden)に赴き、有名なプレーケストーレン(Preikestolen:「説教壇」の意)の上に立つことにあった。ここからの景色は素晴らしいとのことなので、天気の良い時に訪れようと思っていたが、この天気なら、今日はどうにか大丈夫そうだ(明日から週末で混雑するので、可能なら今日中に行っておきたい)。

  まずは対岸のタウ(Tau)行フェリーに乗車し、フィヨルドを縦断して30分ほどであっさり到着する。ここから、シーズン中なら登山口までの直通バスがあるが、今は走っていないので、途中のヨースペラン(Jørspeland)行のバスに乗り継ぐ。するとまもなく、前方の雲行きが怪しくなり、激しい風雨になってしまった。15分ほどでヨースペランに到着するも、雨がひどいので、ひとまず電話ボックスに駆け込み避難。雨はいったん止みかけたがすぐに復活し、風雨が続いている。ここまで来て引き返さざるを得ないのか…そんな不安が脳裏をよぎった。

 1時間ほど待機するとようやく小降りになり、外に出られるようになった。さっそく東の空をチェックすると、先ほどよりはマシになっているが、まだ安定したとは言い難い。さて、どうしよう…予報では今日から天気が回復に向かうが、明日の方が良いという話だった。しかし天候の変わりやすい地域のこと、当てにはできない。ここまでの移動を無駄にするのもなんなので、ひとまず前進することに決めた。

 とはいえ、登山口まではさらに8km、まだ遠い…と、ここで目の前に小さなインフォメーションを発見。さっそく入って行く方法を聞いてみると、歩くには遠いのでタクシーを呼んでくれるという。言葉の問題(ノルウェー語は話せない)で呼ぶに呼べなかったが、これで一件落着。少し待って乗車し、いざ登山口に向かった。

 しかし、走っているうちにまたも大雨になってしまった。まもなく到着するも、これでは動くに動けないので、木陰に隠れて待機する。やはり今日歩くのは失敗だったのか…すると、しばらくして雨が止んでくれた。これ幸いと歩き始めると、瞬く間に青空が広がり、暑いほどになった。何という幸運! 先ほどまでの天候が嘘のように晴れ渡ってきた。道は濡れて滑りやすいが、これなら歩くことができそうだ。

Preikestolen Trail
湿原と岩山の道をゆく

  プレーケストーレンまでは片道3.8km。登りになるので、所要は2時間だという。最初の登りをこなすと高台に出て、辺りの展望が開ける。平坦になったと思ったらまた登りになり、その先は湿原になっている。さすがにこの雨の後では誰もおらず、静かで快適だ。

  続いて岩場の登りにかかると、不意に人の姿が見えるようになってきた。見ると中高年の人たちが、ゆっくりと登っている(これだけ集中しているのを見ると、おそらくいったん雨が止んだ時に一斉にスタートしたのだろう)。彼らをゴボウ抜きし、登りを終えると視界が開け、前方に岩山とフィヨルドが見えてきた。早くも絶景が広がっている。

Rocks st Preikestolen Trail
岩山の展望が広がる

 ここでほぼ中間点。休むのに良さそうなところだが、前にも後ろにも人がいる状態なので、先を急ぐことにする。さらに数名を抜き去り、池が点在する地帯を越えると分岐が登場したので、とりあえず右に入ってみる。道はまもなく登りになり、来し方の展望が開けてきた。ここまで来ると一通り抜き終えたと見えて、前を歩く人の姿は見えなくなった(引き返してくる人はチラホラ)。フィヨルドはもう目前だ。

 岩盤登りを終えると、一転して下りに入った。ここまで約1時間、距離的にはもうすぐなのだが、どうなっているのだろう、プレーケストーレンはどこにあるのだろうか…道は左に折れ、前方にはリーセフィヨルドが見えてきた。その岩場の先端まで行ってみると、おぉ、真下にプレーケストーレンがあるではないか!

View of Lysefjord
リーセフィヨルド

View of Preikestolen
プレーケストーレン登場!

Preikestolen
プレーケストーレン (横から)

 絶景なり!

 プレーケストーレンの上には2人が座り込んでいるだけで、とても静かだ。上から見ると、この岩が明らかに出っ張っているのがよくわかる。直滑降はできないので、迂回しながら教壇まで下りていくと、ちょうど2人組が退散したところで、誰もいなくなっていた。さっそく教壇の上に立ち、下を覗き込んでみる。高さ604m、切り立った岩は迫力満点だ。この日は風が強いのでなおさら、怖いほどの迫力である。幸いにも天気が良くなったので、フィヨルドや周辺の景色は一望のもと、素晴らしい景観が広がっている。絶景なり!

 しばらく佇んでいると、先ほど追い抜いた人たちが現れ始めた。少々うるさくなってきたし、寒くなってきたので撤収する。この時、実はもう一つ、気になることがあった。それはプレーケストーレン越しにリーセフィヨルドを撮った写真が、パンフレットや絵葉書などでよく掲載されていたこと。教壇の上にいる時から、どこにいけば撮影可能か探っていたのだが、何となくわかったので歩くことにする。

 まずは先ほどの道を引き返し、教壇を見下ろす岩からさらに奥へと進んでいく。すると、左に進む踏み跡があるので、それに従って歩を進める。緩やかに登って道なりにゆくと、やがて左手に、谷間越しに教壇とフィヨルドが一望できるようになった。ただ、ここでは下の段が邪魔して、写真としてはあまり美しくない。さらに下りる道を探し、ようやく目的の場所に到達。一歩先は崖、風が凄まじく立っているのが恐ろしいほどだが、眺めは素晴らしい。教壇を見下ろしていると、小人たちが出たり入ったりしていて、何だか滑稽だ。

Lysefjord with Preikestolen
プレーケストーレン越しのリーセフィヨルド

 ここでしばらく過ごしていると、教壇に人がいなくなったので、再び戻ってみることにした。近くまで来ると相変わらずの大迫力で、見応えがある。と、まもなく若者グループがいくつか現れるようになった。既に3時過ぎだが、若者は増える一方で、いつの間にか大盛況になってしまった。こうなっては、もはや私の出る幕ではない。この騒々しさは耐え難いので、さっさと引き返すことにした。

 帰りは往路とは違う道を通って帰る。こちらは比較的平坦で、どちらかと言うと往路に使った方が良さそうだ。まもなく分岐に到着し、ここからは同じ道を引き返していく。淡々と歩き、再び中高年グループを何人か抜いて、1時間ほどで無事帰着。ここからタクシーを呼ぶのもなんなので、歩いてヨースペランに向かった。多少雲が増えたとはいえ晴天で、のんびり歩くことができた。

  2時間かけて街まで戻り、バスでタウへ。この時間ともなればバスもフェリーもガラガラ(逆方向は混んでいる)で、7時半過ぎにはスタヴァンゲルに着いてしまった。金曜の夜とあって街は大賑わい、若者を中心に盛り上がっている。それを尻目に、私は満足のうちにホテルに戻り、静かに時を過ごした。

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