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旅行記:アルプス(世界自然旅)

37.アルプスも深雪 (2004/6/17:晴時々曇

 予定を急遽変更

 雨は夕方に止み、それから一気に回復して、翌朝は快晴となった。残り3日の滞在中、最も良い日にはエッツタール(Ötztal)に出向き、有名な展望地、ホーエ・ムート(Hohe Mut)に向かおうと考えていたが、このコースはたかだか1~2時間、半日天気が良ければ十分だ。まさかこんな快晴になるとは思ってもいなかったが、明日も午前中までは天気が良いらしいので、ここは作戦を変更し、まずはツィラータール(Zillertal)に出かけ、次の日にエッツタールに行くことにした。

 ツィラータールは、チロルで最も開けた明るい谷である。ロンリー・プラネットの"Walikng in the Alps"によると、この谷奥に素晴らしい日帰りコースがあるという。曰く"A compact mountain circuit that leaves a big impression. Relatively easy walking provides memorable views over the waters of the Schlegeis reservoir to the glaciers and peaks of the Zillertal Alps"。とても興味を惹かれたが、問題は標高だ。途中の小屋でも2679mあり、これは(数日前歩けなかった)フェルナウよりも300m以上高い…ただ、この前は北側の斜面だったが、今度は南側の斜面なので、雪が溶けている可能性はある。とりあえず行ってみて、駄目なら引き返そうと決めて、朝食も食べずに出かけた。

 インスブルック7時半発の列車に飛び乗り、まずは40分かけてイェンバッハ(Jenbach)へ、ここで乗り換えてマイアーホーフェン(Mayrhofen)に向かう。駅にはかわいらしい列車が止まっていたが、これは観光用で、実際に乗るのは普通のディゼルカーであった。

  列車はゆっくりと走り、1時間かけてマイアーホーフェンにたどり着くと様子が一変、駅前のバス停がひどい混雑になっている。すると目的のバスが登場し、待ちくたびれた人たちがどんどん乗り込み、あっという間に満員になってしまった。私はギリギリ座れたものの、通路も含めて超満員の状態…こんなに混むとは思ってもいなかった。

 バスは狭い谷を奥に進み、ギンツリング(Ginzling)、ブライトラーナー(Breitlahner)を通過して急坂を登っていく。眼前には巨大なダムが聳え、そこまでクネクネと上がっていく。トンネルを越えると終点のダム湖、シュタウゼー・シュレッグアイス(Stausee Schlegeis)に到着。マイアーホーフェンから1時間弱の道のりだったが、ダム湖の後ろにはアルプスの山々が見えて美しい。乗客のほとんどはダム湖の奥へと歩いていくが、私はそれに背を向けるようにして歩き始めた。

Stausee Schlegeis
シュタウゼー・シュレッグアイス

 深雪に大苦戦!

 ドミニクス小屋(Dominikushütte)を横目に緩やかに登っていくが、道は良く整備されているので楽に歩くことができる。振り返ればダム湖の眺望が素晴らしい。ジグザグの登りをこなすと、40分ほどで目新しいフリエセンベルグ小屋(Friesenbergalm)が登場。この先から一気に展望が開けてきて、ツィラーターラー・アルペン(Zillertaler Alpen)の山々が視界に入ってきた。これは素晴らしい景観だ。正面にはホーフェル・リッフェラー(Hoher Riffler:3231m)が立ちはだかり、道はその懐に導かれている。ここをジグザグに高度を稼ぎながら、着々と登っていった。

View of Stausee Schegeis
ダム湖を振り返る

Part of Zillertal
ツィラータールの景観

Hohel Riffler
ホーフェル・リッフェラー

 ところが、この辺りから早くも残雪が深くなってきた。小さな台地に出ると、その先は雪が目立つようになり、道はほとんど埋まっている。辛うじて先人の踏み跡があるが、まだほとんど歩いた形跡はない。道は斜面に取りつけられているが、雪道歩きは容易ではなく、時に深くめり込み、時に滑りやすくて苦戦のしっ放し。どうにか道を開拓して歩いていくが、まだフリエセンベルグ小屋(Friesenberghütte)も見えず、この先が思いやられる。地形的にはもう、かなり近いところまで来ているのだが…

 斜面を周り込みながら登っていくと、ようやく頭上に小屋が見えてきた(ちなみにこの小屋、2日後にオープンと書いてあったが、こんな状態ではしばらく誰も近寄れない気が…)。ここを登り、小屋までやって来ると、すぐ横にある湖、フリエセンベルグゼー(Friesenbergsee)は雪の下で見えず、周りを見渡しても雪だらけ…ここまで雪に埋め尽くされているとは正直思っていなかった。が、ひとまず岩の上で休憩し、周りに広がるツィラーターラー・アルペンの景観を肴に、昼食を取ることにした。

View of Zillertaler Alpen
ツィラーターラー・アルペンを望む

Friesenbergsee
雪のフリエセンベルグゼー

 さて、周囲の展望は申し分ないのだが、これからどうしよう…距離としてはほぼ半分まで来たが、この先、頭上の台地上まで登らなければならない。上の様子はわからないが、途中を見る限り、しばらくは雪との格闘になりそうだ。ただ、ここをこなせば後は下り坂、雪もそのうちなくなるだろう…と楽観的に考え、まだ4時間の猶予があることもあって、思い切って歩いてみることにした。

 沢を渡り、登りにかかるが、全てが雪に覆われているため、道がどこにあるのかわからない…こうなると道を探しても仕方がないので、歩けそうな場所を探すことになる。少し先の谷が何とか上がれそうなので、トライしてみる…が、これが大変。かなりの傾斜なので、ただでさえ危ないうえ、足場を確保するのも難しく、ヒヤヒヤもの。それを無事クリアすると、今度は急斜面を直登していくが、これがまたキツイ…雪を踏みしめながら、一歩一歩登ってようやく難関突破。ここから斜面をトラバースして、台地上に出た。

View of Zillertal
台地上からのツィラーターラー・アルペン [→拡大版]

 ところが、この先は斜面のトラバースが続いている。はるか遠くに正規の道が見えるが、かなり高いところに来てしまったため、道なりに真っ直ぐ下りるのは危険だ。仕方ないので、まずはほぼ横に向かって歩き、地面の露出したところで下っていく、という戦法で正規の道に戻っていく。かなりの斜面なので、雪崩が起きそう(or 起こしそう)で怖い…その恐怖と闘いながら、山側を手で支えながら歩くが、手袋を忘れたためにすぐ霜焼けになり、手を雪に付くのが辛い(文字通り「手を焼いた」状態)。

 それでも進んでいくと、ようやくトレイルに合流した。しかし、これがかえって仇となり、その先の谷越えが急で危ない。これを慎重にクリアすると、今度は道が再び隠れてわからなくなり、勘を頼りに歩かざるを得ない。まったく、想像以上に手強い相手だ。

 この先は、本来の道を探しながら、歩けそうな道を見つけていくのだが、斜面が多く、踏み跡もないため、危険極まりない。緩い斜面なら簡単に歩けるが、谷を渡る時などは恐ろしいほどの斜面をトラバースしなければならない(もちろん雪の上)。慎重に歩いて、なんとか一つ一つクリアしていくのだが、気がつけばもう3時過ぎとなり、時間の余裕がなくなってきた。早く進みたいが、相変わらず雪道が続き、しばらく終わりそうにない。読みが甘かった…と思っても後悔先に断たず。今さら引き返すわけにはいかないので、前進あるのみだ。

 バスに乗り遅れて…

 下り続けて眼下にダム湖が見えるようになると、ようやく斜面も緩やかになり、多少歩きやすくなってきた。だが、今度は部分的にアイスバーンになっているうえ、谷筋を通過する時は急な雪の斜面を通過するので、全くもって油断はできない。本来の道を完全に見失ってしまったので、歩けそうなところを歩いていくのだが、岩場に入り込むと「隠れ落とし穴」が待ち構えていて、容易には進めない。次のオルぺレール小屋(Olpererhütte)はまだ見えず、焦りが募ってきた。

Stausee Schlegeis from Olperer
ダム湖を見下ろす

 しばらく歩くと、ようやく雪の減った台地上に出た。ここからダム湖を見下ろす景色は、正面に氷河が見えて美しいが、ふと逆側を見上げると、オルペレール小屋が頭上に立ち尽くしていた。いつの間にかコースより下側に来ていたようだ。しかし、もう時間がないので小屋には寄らず、そのまま下りに入る。ところがこの先には滝があり、そのままは下れないので一旦横歩きし、正規の道に戻って橋を渡り、ようやく下りに入った。

 ここまでくると踏み跡も多数あり、歩くのは難儀でなくなった。が、もう残り30分しかない…既にかなり厳しいが、最後まで諦めず、駆けるようにして下っていく。70%の潜在能力をも駆使して急降下していくが、いかんせん時間がない…残り5分になってもダム湖ははるか下、これでは「どこでもドア」がない限り間に合わない。やがてバスの音らしき騒音を聞きながら空しく歩き、バス停に到着したのは最終便の出発から15分後であった(これでも通常の半分弱の時間で下った)。

 この時間になると人はおらず、レストランも閉店し、昼間の活況が嘘のようだ。少し休んだら、トボトボと車道を歩き始める。当たり前だが宿は確保していないので、今日は徹夜ウォークも覚悟の上。ちょうど水も尽きてしまったので、どうにか街まで歩くしかない。

 だらだらと歩き続けていくと、1時間ほど経ったところで不意に車が停車した。私のことを不憫に思ったらしく、途中のギンツリングまで乗せてくれるという。助かった…これで街まで出られる!

  そしてギンツリングに着くと、今度はその知り合いの車でマイヤーホーフェンまで行くことができた。何という幸運! このままイェンバッハまで行ければ良かったが、あいにく彼は別方向ということで下車し、念のためバスを確認するが、既に7時半過ぎで、最終バスは20分ほど前に出てしまっていた…

 仕方がないので、ここで水と食料を調達したら、再び車道を歩いていく。イェンバッハまでは30kmあまり、朝までに着ければ良い、と割り切って進むが、路肩が狭い上に車が結構飛ばすので、怖くて仕方がない。徐々に空が暗くなり始め、この先が心配だ。

  10kmほど歩くとトンネルが登場し、ここを粛々と通過していくと、出口の先で車が止まった。何だろう…私が近づくと、彼らもこちらに向かってきた。ん?良く見ると警察ではないか! しまった…と思ってももう遅い、こうなってはどうすることもできない。

 流れのまま警官のもとまで進むと、1人が英語で「ここは自動車専用道路なので、歩いてはいけないんだ」と言ってきた。そうだったのか、どおりで…ひとまず素直に謝り、こちらの事情を話す。いろいろと職務質問され、パスポートも要求されたが、素直に従っていると悪者ではないと判断したようで、次第に穏やかな対応になってきた。そして「途中まで乗っていくか」と言ってくれたので、感謝しつつ乗せてもらい、一気に北上した。

  やがて、パトカーはフーゲン・ハート(Fügen-Hart)で停車した。管轄の問題かは知らないが、ここまでしか乗せられないという。降ろされたのは良いとしても、ここからイェンバッハまではまだ十数km、時は10時半を回り、外はもう真っ暗になっていた。

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