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学士論文 『ポスト企業社会とボランティア』

卒業学士論文要旨

第1章 企業社会のエルゴロジー

1.経済至上主義の功罪

  日本では、非人間的な労働により「過労死」まで生み出しているが、それは超長時間労働のみならず、労働密度の高まり、深夜・不規則勤務の増加によっている。そして、それが子供にも「受験戦争」として広がっているのだ。その最大の要因と考えられる「日本的経営」の労務管理システムは、「業績」主義による競争や小集団管理、企業内福祉などによる企業への忠誠を強いるものであるが、これに適合した場合は生活と社会的地位が保障される。そのため労働者は、多少不満があっても、企業利益のために残業もいとわずに身を捧げて働く「企業戦士」となるのである。

2.企業社会の変容

  ところが、国際化・情報化・高齢化などの内外諸情勢の変化が進む中で、自己実現を望む人が増えるとともに、これまでの日本的経営システムも制度疲労をきたしている。そして、今まであまり顧みられなかった家庭や地域に自らのアイデンティティを見い出そうという動きが見られるようになり、個人の関心が広く社会に向けられるようになっている。こうした中、にわかに注目を集めているのがボランティアなのである。

第2章 ボランティア・ブーム

1.バブルとフィランソロピー

  ところで、ボランティア・ブームに先駆けて注目されたのが、企業フィランソロピーであった。90年の「フィランソロピー元年」を皮切りに、「企業市民」としての活動が金銭的な援助を中心として活発化し、世間の注目を集めた。その背景には、バブル期の投機的な投資や「冠コンサート」に対する批判をかわす目的があったが、他にも在米日系企業の現地化で活動を経験していたことがあげられる。

2.バブル崩壊とボランティア・ブーム

  しかし、バブル崩壊とともに企業はリストラを進めて経費を節減したが、代わりにボランティア休暇・休職などの物的・人的支援が増えつつある。また、ボランティア活動の自己実現的側面が現場でも行政でも見直されるようになり、自己実現を望む社会情勢と相まって、一種の「ブーム」になっている。活動経験者は年々増加し、意識も寛容な考え方が見られるようになってきている上、活動内容も広がっているのだ。

3.阪神大震災とボランティア

  こうした中、阪神大震災が勃発し、多くの人が現地に駆けつけるとともに、既存・新規のボランティア団体や企業も様々な支援活動に携わり、ネットワークを作るなど、その活動が日本中で大いに注目された。そして、これ以降「ボランティア」は市民権を得て、これまでにない盛り上がりを見せており、「ボランティア元年」と呼ぶにふさわしい状況になっている。しかし、逆に言葉の解釈は多義的になり、曖昧なままなのである。

第3章 ボランティアとは何か

1.ボランティアとは?

  一口に「ボランティア」と言っても多様であるが、基本原則として「自発性」「公共性」「無償性」があげられる。そこでそれぞれを検討すると、自発性はボランティアの語源からすれば当然であるが、消極的自発性も許容範囲であると考えられる。また公共性は私利私欲に立脚したものでも社会的に開かれていれば良いであろうし、無償性も経済的・社会的利益を目的としなければ有償でも良いと思われる。よって定義は「ある(社会的な)問題に共感して、自ら進んで、経済的・社会的報酬を目的とせず、責任を持ってそれに対処する行為、もしくはその人」となる。

2.フィランソロピーとは?

  一方、「フィランソロピー」という言葉も正確には把握されておらず、日本では「企業の社会貢献」と誤解されている。しかし、語源的には「人類愛」を意味しており、寄付やボランティア活動を総称するだけでなく、優しい人間愛に溢れた社会を作ろうとの思いが込められている。よって定義は「人間愛に基づいて、思いやりの心を体現する行為」となる。

第4章 ボランティアは根づくか

1.意識の溝

  ところで、最近になって関心が高まっていると言っても、日本にはボランティア精神などないと言われるように、意識面で溝がある。確かに、日本にはキリスト教の精神は根づいていないが、代わりにイエ・ムラにおける相互扶助の伝統があり、それが最近の情勢の変化の中で「自我拡大」を起こし、脱排他的な意識へと変貌しつつあると考えられる。そのため、意識の方も「助け合い」を基盤として盛り上がってくるだろう。

2.制度の壁

  一方、こうしたボランティアの「思い」を生かすためには組織が必要である が、活動団体のほとんどは法人格を持たない「任意団体」であるため、資金不足を始め多大な難問を抱えている。そこで法人格取得制度をみると、現状では取得が極めて困難な上、取得しても主務官庁の監督があり寄付金控除もわずかであるなど制約も多く、欧米に大きく遅れをとっている。ところが、阪神大震災を契機に市民団体だけでなく政党や政府も制度の見直しを始めており、いくつかの問題はあるが、総じて今後の展望は明るいようである。

3.政策と論争

  こうした中、活動支援策として教育における評価や有償・時間貯蓄制などが広がり、論議を呼んでいる。だが、教育における評価は、点数化さえしなければ、過渡期には必要であるし、啓発の好機と捉えることもできる。また、有償・時間貯蓄制は相互扶助の精神からすれば受け入れやすいものであり、一概に否定するべきものではないだろう。

第5章 ボランティアがもたらすもの

1.豊かな人間関係の形成

  では、ボランティアが個人や社会にもたらすものは何であろうか。まず、活動に参加すること自体勇気のいることであるが、葛藤を乗り越え、勇気を出して参加することで、血縁・地縁・社縁でもない選択的非拘束的関係のネットワークが広がる。それに、相手との主体的な係わりの中で、充実した思いやりのある人間関係が育まれるとともに、社会的にアイデンティティを認められることで、活動者自身も報われるのだ。

2.相互学習と問題発見

  また、日常とは異なる世界を体験することで、自分と異なる文化の存在を体験的レベルで知るとともに、相手の立場を理解しようとする中で、価値の相対化をもたらし、自分自身の新たな一面を発見するなどして新しいものの見方や新しい価値の発見に寄与する。その一方で、逆に日常生活の大切さも教えられる。なお、この限りでは企業社会にさらなるダイナミズムと活力を与えるが、活動が充実してくれば「問題解決」へと進むのである。

3.問題解決への道

  こうしたことから社会への関心は高まっており、提案型市民活動に見られるように、できる範囲で自分なりの問題解決を図るようになってきている。それが進めば、「会社主義」や「お上意識」を脱却して、受動的な日本人は能動的な「市民」へと変貌するとともに、市民が主体となった自治の達成に邁進し、漸進的に自律的な市民社会の形成へと向かう力になると思われる。それゆえ、ポスト企業社会のパラダイムとして大きな可能性があると言える。

第6章 ポスト企業社会の展望

1.企業社会を超えて

  戦後50年の間、日本は経済成長を求め、問題を抱えながらも「経済大国」にまでなった。だが今後のことを考えると、内外諸情勢の変化の中で、今までのような経済至上主義が通用しないことは明らかであり、震災とオウムはその限界を思い知らせてくれている。

2.フィランソロピーの時代に向けて

  そう考えると、非営利セクターのように、市民が主体となった問題解決がますます重要になってきている。そして、本当に必要なのは競争から共生への価値観の転換であり、そのためにはボランティアやフィランソロピーをさらに育成していかなければならないのだ。

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