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五輪館
毒語館個人的体験記

[2000.6]

個人的体験記

電子マネー体験

 1999年春から約1年にわたって、私は2つの電子マネー実験に参加した。今回は、その中で体験したこと、感じたことをざっくばらんに記したい。

1.申込手続

  電子マネーと聞いても、1年前の段階ではまだ夢物語で、遠い将来に実現するかもしれない程度にしか思っていなかった。街中にもそんなサービスは皆無で、興味はあったものの、当面はお預けだと踏んでいた。まして自分が使うなんてことは、想像もしていなかったのだ。

  そんな折、1999年3月になって、たまたまWebでほぼ同時期に2つの電子マネー実験モニター募集記事を発見した。1つは「インターネットキャッシュ」、もう1つは「スーパーキャッシュ」で、どちらも無料であるという。年度末の多忙な時期ではあったが、私は思わずWeb上から申し込みをしたのであった。

  ここで、2つの実験の概要を紹介しておこう。

  「インターネットキャッシュ」は、(財)マルチメディア振興センターが郵政省などと協力して実施しているプロジェクトで、インターネット上でのサービスに限定して行われている。具体的には、金融機関との取引(発行・換金等)と加盟店への代金支払いがオンラインで可能である。今回は第2フェーズとのことで、一般にもモニターを1万人ほど募集したそうである。

  これに対して「スーパーキャッシュ」は、NTT開発のシステムを採用し、24の金融機関等が協力して実施されている巨大プロジェクトで、上記のようなインターネット上のサービスのほか、新宿地区の約1,000店舗で使用可能とした。モニターも10万人募集(ただしインターネット上のサービス用モニターは1万人)で、まさに一大実験である。

  さて、申し込みは行ったものの、肝心の書類がなかなか届かない。オンライン上で全てできれば良いのだが、今回はいずれも別途書面で申し込む必要があるのだ。しかも、どちらも実験用に専用の銀行口座を開設しなければならない(インターネットキャッシュは3銀行限定であり、スーパーキャッシュは銀行数が多いものの、開設できるのは新宿近辺の支店等非常に限られているため、現行の口座では無理!)など、面倒が多い。実験とは言え、この辺はもう少し改善してもらわないといけない。

  そうこうするうちに実験はスタートしてしまった(スーパーキャッシュは4/14開始)が、まもなく資料も届いたので、4月下旬から5月上旬にかけて書類を作成し、どうにか手続きを終えたのであった。

2.試用開始!

  結局5月末になって、待望のICカードや接続機器が手元に届き、新規口座にお金を一部移して、ようやく使用可能な状態にまでこぎつけた(接続機器は、インターネットキャッシュがPCカード型、スーパーキャッシュがシリアル接続型)。

  そこで、さっそく試用してみる。まずはインターネットキャッシュで口座からICカードにお金を下ろそうとしたが、哀しいかな、時間オーバーで却下されてしまった。買い物は24時間受け付けているが、銀行からICカードにお金を入れるのは、平日が夜9時まで、土曜日が夕方5時までで、日曜祝日は取扱いしていないのである。これでは、平日夜遅いサラリーマンはなかなか使えない…

  仕方なく後日時間を合わせて再チャレンジしてみると、今度は首尾よくお金を移すことができ、ちょっとした感動を覚えた。そこで、しばらくはお金を入れては戻し、入れては戻して、ちょっと遊んでみた。そして、その勢いに乗って電子商店街の方にも行ってみたが、初期段階ではまだ開設していない店も多く(出店先も、実験より現実の経営の方が大切なのか?)、おまり興味を覚える店もなかったので、ろくに中を覗かずに退散してしまった。

  対するスーパーキャッシュは、新宿の主要店で使えるということなので、さっそく買い物で使ってみることにした。

  まずは専用の公衆電話からICカードにお金を移し(新宿地区に30台程度用意)、紀伊国屋書店で本を購入する時に提示してみる。ところが使う人がいないせいか、店員も困った顔をしながらレジの奥に行き、何やらマニュアルを見ながら悪戦苦闘している。他の店員の助けを借りながら、5分ぐらいかけてどうにか支払いを済ませたが、天下の紀伊国屋でさえこの有様だ。実験を開始したものの、まだほとんど浸透していないのだなと、少し残念であった。

  しかもスーパーキャッシュでは、インターネットキャッシュ同様、カードへの入金は時間が限られているので、ふいに買い物をしようと思っても、持ち合わせがないと現金で払わざるを得ない(具体的には、土曜日の夕方に東急ハンズ新宿店で買い物をしようと思ったら、カード残金が少なかったので、店内の公衆電話で入金しようとしたところ、平日は夜8時、土日は夕方5時までだったので、間一髪間に合わず、なくなく現金で支払った…)。これも実験とはいえ、改善して欲しい点である。

3.目的化する矛盾

  まず、自分が普段使っている口座とは別なので、使うためには口座宛にいちいちお金を振り込まなければならない。これは案外不便で、安月給の身では移す金も十分にはなく、だんだんと口座への入金が面倒くさくなってきてしまう。普段使っている口座で使わせてくれれば良いのだが…

  まして先ほど触れたように、電子マネーを使うには時間の制約があるので、いざという時に使用できず、辛い。しかも、インターネットキャッシュではICカードとキャッシュカードが別物なので、カードが増えて不便であった(その点、スーパーキャッシュはICカードとキャッシュカードが一緒だったのは便利だった)。

  また、使える店を探すのに一苦労してしまった。スーパーキャッシュは新宿地区約1,000店で使えるものの、全体に比べれば割合は少ないので、事前に使える店を調べておかないと不安で仕方ない。これが何の気兼ねもなく、普段買い物をするようなところでも使えるようになれば、何と便利だろう!と妄想してみても、現実は現金払いがほとんどである。

  インターネットキャッシュにしても、インターネット上の商店を覗いてみても、商品が探しづらく、興味あるものを探しているうちに時間ばかり経ってしまう。それも狙いの1つなのかもしれないが、会社で使うならともかく、家庭で使うには通信料が気になってしまい、もともと消費意欲が強くない私のような人間は、あまり寄りたがらなくなってしまう(広帯域で繋ぎっ放しの環境が整っていないからこその問題かもしれないが…)。

  こうした問題から、本来は消費の一手段に過ぎない電子マネーが、やむなく目的化してしまう。チケットを買うにも、わざわざ新宿の旅行代理店に出向いてみたり、本や家電も新宿で買ってみたり…だがその矛盾がむなしくなって、忙しくなるにつれてだんだんと使わなくなってしまった。ましてインターネットキャッシュは、ただでさえ使いにくいうえ、11月に銀行の支店統廃合の都合でいったん口座とカードを返却したので、それ以降使うには至らなかったのである。

  その結果、秋以降はスーパーキャッシュをたまに使うぐらいになり、やがてインターネットキャッシュは2月末、スーパーキャッシュは5月末に実験の終了を迎えたのであった(ちなみに、スーパーキャッシュのバーチャル実験にも参加できたが、夏にデスクトップPCが永眠したので、接続機器が使えなくなり、結局一度も使うことなく終わってしまった)。

4.「当たり前」はいつか?

  今回試用して思ったのは、サービスには汎用性と柔軟性が必要である、ということだ。すなわち、限られたところで使えるよりも、広い範囲で使える方が便利だし(例:新宿地区限定の問題、時間制約の問題)、従来使っているシステムに付加的に追加できる方が新規に立ち上げるよりも使いやすい(例:新規口座開設の問題)。いくら先進的なシステムであっても、利用者の立場から見て使いにくければ、結局使われなくなってしまうのだ(と、自己弁護…)。

  このように、今回の実験では問題点ばかりが目立ったが、それでも、現金を持ち歩かなくて済むのはやはり便利(特に小銭を気にしなくて良いのは快適!)だし、どこからでもお金を引き出せるのは素晴らしいことだ。だから、上記の問題点を踏まえて、時間も場所も気にすることなく、いつでもどこでも簡単に使えるようになれば、キャッシュレス時代もそう遠い将来の夢物語ではない、と思えてくる。

  現に、既にその萌芽は見え始めている。例えばデビットカードは、普段使っている銀行のキャッシュカードで買い物ができるうえ、3月から加盟店が大幅に増え、全国展開されているので使いやすい。ICカードと比べるとセキュリティに不安が残るものの、これから大いに期待できるだろう。

  また、コンビニでは銀行のATM機能がどんどん移植されているし、銀行のインターネットバンキングも軌道に乗り始めたようである。しかも、キャッシュカードに電子マネーやクレジットカード機能を搭載するシステムがまもなく登場するそうだ。多機能カードはもう目前なのである。

  そうなれば、現在の消費のあり方もだいぶ変わってくるのだろう。電子マネーが当たり前になる時代はいつになるか定かでないが、そう遠くないことだけは確かなので、今回の経験が近い将来生きれば何よりである。

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