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五輪館
毒語館独白の世界

[1999.4]

独白の世界

私の尊敬する人

1.実在せぬ人

  ちょうど1年前に(虎舞竜「ロード」の歌い出しみたいになってしまった…)、私が入社に必要な書類を書いていたときのこと。「身上調書」という、今時こんなもの書かせてどうするのかという代物があって、仕方なくしぶしぶ書いていたのだが、その中に、「尊敬する人物」なる項目があり、私はしばし考え込んでしまった。というのも、私の尊敬する人は、現実の世界には存在していなかったからだ。

  悩みに悩んだ挙げ句、結局は、「自己嫌悪」を書き終えてまもないこともあって、とりあえず思い浮かんだ長宗我部元親にしておいたが、提出後もどうも引っかかって仕方がなかった。たとえ実在していなくとも、本当のことを書いておけば良かったのではないか、と…

  結論から言えば、実は、私の尊敬する人は「シャーロック・ホームズ」と、北斗の拳に出てくる「トキ」である。これでは、会社からすればギャグとしか思えないだろうし、もし書いていたらふざけた奴だと思うだろう。だから書くのを躊躇したのであるが、それでもこの2人は、私とは大いに異なって、非常に優れた人物である。

2.ホームズの魅力

  シャーロック・ホームズについては、今さら語るまでもないだろう。コナン・ドイル原作の、言わずと知れたイギリスの名探偵であり、今でも愛好家は多い。私も高校の部活を引退後、ちょうど良い具合に始まった再放送で、NHK放映の「シャーロック・ホームズの冒険」(イギリスのグラナダTV作)を夕方に欠かさず見たりして、その分析の鋭さに舌を巻いていた。それだけに、このシリーズでホームズ役であった俳優の死を耳にした時には、ショックで10秒ぐらいリアクションがとれなかった(この程度ではあまりショックを受けていないという説もある)が、とにかく、彼は非常に魅力的である。

  では何がすごいかと言えば、まずは、たぐい稀なる分析力である。ほんの一瞬相手を見ただけでものすごい情報を収集かつ分析し、推理していく様は素晴らしいの一語に尽きる。あれだけ頭が切れると、周囲の人間は逆にたまったものではないかもしれないが、どんな難事件でも解決するあたりはさすがである。

  しかし、彼の魅力はそれだけではない。同じ誕生日の古畑任三郎と比べても、いやらしくしつこく攻める古畑に対し、紳士的でスマートに推理を働かせ、必要以上に依頼者に介入したりはしない。それでいて、依頼者や犯罪者の心情も汲み取るあたりは素晴らしい。犯罪は犯罪と杓子定規で決めてしまうのではなく、やむを得ぬ事情があると判断すれば、罪を免じたりするし、一部の人間と癒着したりしないし、安易に集団と群れたりしないし、依頼者が貧乏だろうと金持ちだろうと、金に左右されずに任務を全うする。しかも、依頼者と恋仲に陥ったりは決してしないのである(これがアメリカに行くと、なぜかホームズとの恋愛でハッピーエンドになってしまうらしいが)。

  私はこうしたホームズの姿勢、つまり自己愛ではなく人類愛的な姿勢に共感してしまうのである。

3.トキへの思い

  一方、トキの方は知らない人も多いかもしれないので、若干補足しておこう。

  「北斗の拳」は199X年の核戦争後の世界を舞台にした物語であり、今の若手サッカー選手に多大な影響を与えたであろう「キャプテン翼」や、「筋肉マン」、連載初期の「ドラゴンボール」などと並ぶ週刊少年ジャンプ全盛期の代表作であり、テレビアニメ&映画化も果たしている。この中で、トキは主人公ケンシロウの義兄なのだが、その主人公ですら尊敬する人物なのである。

  なぜかと言うと、核戦争が勃発した時、トキと主人公とそのフィアンセが核シェルターに逃げ込もうとしたら、中には大勢の子供がおり、後2人しか入れないというのだ(!)。漫画上はどう見ても詰めれば1人ぐらい入れそうだが、ここで覚悟を決めたトキは、2人をシェルターに入れ、自分は外で犠牲になったのである(!!)。しかも、彼は身につけた拳法を世界征服のために使おうなどと企んだりはせず、体の弱った老人や子供を少しでも助けるために使いたいとし、実際死ぬ間際には1人でそうした医療ボランティア的な活動も行なっているのである。

  こんなに真に心優しい人物がいるだろうか。普通は、核戦争が起きれば我先にと逃げるだろうし、力があれば醜い争いをするだろうが、彼にはそんな利己的な泥臭さはほとんどない。主人公ケンシロウが、結局のところフィアンセを捜し求めていたのに比べれば、私はトキの方に断然惹かれるのである。

4.孤高の存在

  このように見てくると、私が共感する部分なり、私と2人が若干なりとも共通する部分というのは、どうやら、スキャンダルがないことと、(集団のカリスマとして)リーダーシップを発揮したりしないところであろう。

  スキャンダルについては、私の場合はまず起こり得ないことである。なぜなら、自分自身も含め、1組の男と女がくっ付いた離れたといったネタには全く興味がないからだ。だから、「大地の子」のようなある種普遍的な愛には感動できても、トレンディードラマのような噂好きが好む恋愛物語には「ケッ、またお決まりのパターンか」みたいなことしか思わないし、だいいち見ようとも思わない。詳しくは別の機会で論じるとしても、こういう性分ゆえ、面食いのイケイケお姉さんや女子高生に引っかかることもないのである(引っかけようという奇特な人もいないと思うが)。

  リーダーシップについては、私は各人の意向をなるべく汲み取り、それを反映させるべく努力しようとしてしまうので、タイプ的には参謀ないし黒幕型であり、リーダーシップを発揮せざるを得ない場合でも調整型となる。このやり方の是非はともかくとして、今の価値観が多様化した世の中にあって、独裁型とも言えるリーダーシップの発揮の仕方には疑問を禁じ得ない。だから、保険統一を訴える某戦国武将や「私に任せて下さい」などと吐かす某新知事は好きになれないのである(それゆえ歴史上に名を残した人物は尊敬できないのかもしれない)。

  しかし、ホームズやトキに比べれば、私はまだまだヒヨッコに過ぎない。彼らはバーチャルな世界で活躍したが、私などは単に集団行動が嫌い&苦手で、このエッセイ等で理想や戯言をぶちまけているだけであり、とにかく実行力がない。実は今はそのためのステップのつもりなのだが、これから、なんとか彼らのような孤高の存在になれるよう日々精進していきたいものである。

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